医薬品GDP 世界基準へのパスポート:PIC/S GDPとグローバルな品質要件
こんにちは。
今回は「PIC/S(ピックス)」と、サプライチェーンのグローバル化について考えてみましょう。
PIC/S(ピックス)とは何か?
PIC/S(Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme:医薬品査察協定および医薬品査察共同スキーム)とは、各国の医薬品規制当局(日本では厚生労働省やPMDAなど)が加盟し、GMP(製造基準)やGDP(流通基準)の国際的な調和を目指す枠組みです。
日本は2014年にこのPIC/Sに加盟しました。これを契機として、欧米の基準に後れを取っていた日本の物流ルールを見直す動きが加速し、2018年に現在の「日本版GDPガイドライン」が発出されました。つまり、現在日本で求められているGDP対応は、実質的に「PIC/S GDPガイドライン」という世界標準への対応と同義なのです。
なぜ「世界共通のルール」が必要なのか?
現代の医薬品産業において、一国でサプライチェーンが完結することはほぼありません。
「有効成分(原薬)はインドで製造され、ヨーロッパの工場で製剤・パッケージング化され、航空便で日本の空港に届き、全国の病院へ配送される」といった具合に、薬は国境を越えて移動します。 もし国ごとに「25℃以下ならOK」「いや、我が国は20℃以下だ」「温度記録はいらない」とルールがバラバラであれば、輸送の途中で必ず品質が損なわれるか、貿易の大きな障壁となってしまいます。
PIC/S GDPという「世界共通の言語・ルール」があることで、輸出入の際の手続きがスムーズになり、どの国を経由しても一貫した品質が保証される仕組みが成り立っています。
PIC/S GDPがもたらしたパラダイムシフト
PIC/Sの基準が導入されたことで、日本の物流現場には大きな考え方の変化(パラダイムシフト)が求められました。その最たるものが「品質リスクマネジメント(QRM:Quality Risk Management)」の義務化です。
従来の日本の物流は「とにかくマニュアル通りに丁寧に運ぶ」という現場の努力や経験則に大きく依存していました。しかしPIC/Sでは、「なぜその温度設定なのか?」「なぜそのルートなのか?」というあらゆるプロセスに対して、科学的な根拠とリスク評価(リスクの洗い出し、評価、低減策の実行)の文書化を厳しく求めます。
「長年の経験上、問題ないはずだ」という主観的な主張は、国際基準の監査では一切通用しなくなったのです。
日本の物流品質は世界トップレベルと言われてきましたが、こと医薬品GDPにおいては「品質を科学的に証明し、記録する」という欧米主導のルールへの適応が現在進行形で求められています。
明日のコラムでは、このPIC/S GDPの根幹であり、すべての業務の意思決定のベースとなる「品質リスクマネジメント(QRM)」の具体的な考え方と手法について深掘りします。
作成 :薬剤師 菅沼一茂
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